刀の取扱い・手入れ・保存


刀の取扱い方
1.鞘を払う(抜く)時
左手に鞘をにぎり左膝の上にのせ加減で、刃を必ず上にし、右手で柄(つか)をもち、心持ち押さえ気味に途中で止めることなく静かに抜き払います。
その際左右にガタつかせると、鞘や刀身を傷つけることがあるので、静かに一息に抜かねばなりません。
2.姿、地鉄(じがね)、刃文を見る
姿、地鉄、刃文等を鑑賞するのですが、その際にはふくさを用意して棟(刃と反対側)に添えるのが望ましい。
刃文を見る時は刀を斜めにし、電球の光線で透かして見る。
地鉄を見る時は、自分の背後から光線を当てると見やすい。
刀身に手が触れると、あとでそこから錆が出てくるので注意が肝要。
3.なかご(中心・茎)を見る
なかごを見る際は、それが他人のものであればあらかじめ主人の許しを得るのが礼儀です。
柄を外す時は刀を一度鞘に納め、目釘抜きを使い、柄に疵がつかぬ様用心深く目釘を抜きます。そして、先の要領で鞘を払い、刀を少し斜めにし、左手で柄の下方を握り、手首を右のこぶしで叩きます。やがて柄が十分ゆるんだところで外します。
ゆっくり落ち着いてなかごを見たい時は、もう一度刀身を鞘にぴったり納めてから見ます。
あまりに錆がひどかったり、乾燥している季節ですと柄が外れにくく、その場合は、無理に外そうとはせず、木槌と当て木を用いればまず抜けます。 
4.鞘に納める時
鯉口(鞘の入口)に静かに切先を持っていき、一度切先を入口のところにのせる様にして、あとは一息にゆっくり入れて行きます。あくまで刃を上に、棟を溝へ滑らす様に入れます。
終いはゆっくりと、鯉口や鐔(つば)の音など立てないように入れ、固く締めます。 
5.他人に刀を渡す時
柄から刀がはずしてある場合、右手でなかごを握り、左手にふくさを持ち刀身にそえ、切先の方をやや高く斜めに持ち、棟の方から差し出します。
または刀身を立てたままでなかごの下方を握り、相手方に棟を向けて差し出します。
後者の方法は、刀が白鞘および拵の柄に入っているときの渡し方でもあります。
いずれにしろ、要は刃を相手方に向けてはいけないということです。 
6.刀掛に掛ける時
柄を向かって左に、刀は刃を上に(太刀は逆に)掛けるのが普通です。大小(刀と脇差)を一緒に掛ける時は一般に刀が上になります。太刀掛に立てる時は、柄の方を下にし、刃が向こう側になるようにします。

刀剣の手入れ方と順序
刀剣のお手入れは、専用の道具が揃っていれば、極めて簡単に行え、時間もそんなにかかりません。
正しいお手入れを、一〜二ヶ月に一度、定期的に行えば、研ぎ上がった美しい状態をいつまでも保つことができます。
また一般に、鑑賞も同時に行いますので、手にとって刀剣の美しさ、きびしさにふれることができ、刀剣愛好家にとって、まさに刀剣の醍醐味が味わえる一時と申せましょう。

お手入れの順序
1.鞘を払う。(鞘から、刃を上にして刀を抜きます。)  
2.ぬいた刀を左手で持ち、拭い紙で、棟方(刃がついてない方)から、古い油を拭きとる。
3.打粉(うちこ)で刀身を軽くポンポンを打ち、先の拭い紙とは別の拭い紙でその白い粉を拭(ぬぐ)う。
この操作を二、三回繰り返し、油のくもりを完全に取り去る。
4.刀を鑑賞する。
5.手入れ、鑑賞がすんだら(錆の発生などに気をつける)あらたに刀剣油を刀身に塗る。
なお、この段階でなかご(刀身の柄に入っているところ)とはばき下の手入れも行うことが望まれます。
目釘をぬき、柄をはずしますと、なかごが現れ、はばきも取りはずせるようになります。
なかごは乾いた綿布で十分に拭い、ごくうすく油を塗ります。
はばき下は、手入れも忘れがちになるところですが、はばきを取りはずし、汚れを落とし、刀身同様、油を塗っておきます。 
6.鞘に納め保管する。  

手入れ用品
<油>
 油は刀を錆びさせないために使用します。
刀身と空気の間に油膜を作り、刀身の酸化(=錆)を防ぎます。
刀を鑑賞しない場合でも、四〜六ヶ月もたつと油は乾燥してしまい錆の原因になります。
三ヶ月に一回は新しく油を塗りかえてください。
ともかく、刀は鑑賞する時以外、いつでも油が塗ってあるもの、とお考えいただければよろしいと思います。
 なお、油を塗るには脱脂綿が一番です。ある程度の回数が使えますので、使ったのちはプラスチックの箱にでも入れて保存しておきます。脱脂綿も少し前までは家庭の常備品でどこにでもあったものですが、今はそうでもなく、用意するのに少し面倒という話も聞きます。
<打粉>(うちこ)
 できるだけこまかくした砥石の粉末状のものが詰めてあります。
二つの使用目的があり、一つは、刀身に付いている古い油を取ります。
もうひとつは、刀の表面を美しく仕上げることです。以上二つのことを打粉は同時にやるわけです。
<拭い紙>(ぬぐいがみ)
 古い油を取りさったり、手入れ用の打粉をとるために使用します。
刀屋さんなどで売っている拭い紙は一般に二枚組になっていますので「油取り用」と「打粉用(手入れ用)」に分けておきます。
刀剣愛好家の間では、古くから越前奉書が拭い紙として愛用されております。
<目釘抜き>
 柄(握りのところ)から目釘を外すために使います。縁起が良いため、「打ち出の小槌型」が昔より愛用されています。

刀のお手入れとは、要は「刀を錆びさせない」ということが主眼です。
刀の錆は、一旦錆びますと、研がなければ、絶対に落ちません。
しかし、研ぎはたいへん費用がかかり、期間も長くかかります。
新しい手入れ用品をいつもお手許におかれ、正しい方法でお手入れなさるようおすすめします。


 なお、研ぎ上がりのお刀は、二〜三ヶ月の間はご注意いただき、十日に一度は手入れをして下さい。

  刀身の手入れは以上ですが、拵がある場合は、柄糸のほこりをブラシでとっったり、鞘の汚れを拭きとってきれいにしたりします。
きっと、昔の武士もここまでしていたのでしょう。内外こざっぱりして、きれいな袋に納まった刀を拝見すると緊張いたします。

保存
 上記の手入れが済んだら、もと通り刀袋に入れ、日陰のよく乾燥した場所に保存します。
日光が照りつけるところ、押入れの下段の奥、樟脳入りの箪笥などは禁物です。
なお、現在は、耐火金庫に入れて保存するのが、その重要性からみても最上と思われます。